日本の文化芸術シーンで確固たる地位を築き、近年はテレビドラマや映画の脚本家としても注目を浴びている詩森ろば(しもりろば)。彼女の創作活動と功績について紹介します。
プロフィールと経歴
詩森ろばは1963年に宮城県仙台市に生まれ、小学生の頃から岩手県盛岡市で育ちました。岩手県立盛岡第一高等学校を卒業後に上京し、1993年に劇団「風琴工房」を旗揚げ。以来、ほとんどの脚本とすべての演出を担当してきました。2018年からは劇団名を「serial number(シリアルナンバー)」と改め、演劇ユニットとして活動しています。
多彩な作品世界

詩森ろばの創作活動の特徴は、全国どこへでも飛び回る綿密な取材に基づき、多彩な題材を他にない視点で立ち上げる手腕にあります。彼女が扱ってきたテーマは歴史劇、金融、福祉車両の開発、コンドームの開発、アイスホッケー、死刑制度、マイノリティ、将棋など多岐にわたります。
しかし、詩森自身は2022年のインタビューで「でも、たぶん書きたいことはひとつ。私が伝えたいのは『それでも人は生きていかなくちゃいけないよね』ということ。人間が生きていること、生きていくために明日につなげていく何かとか。それを書きたいから、題材がカラフルになっているのかもしれません。いちばん大事なのは命。文化芸術は、命を守るためのものだと思っています」と語っています。
演劇活動とserial number
serial number(シリアルナンバー)は、東京で活動する演劇ユニットです。詩森ろばと俳優の田島亮が所属し、時代の変化を大切に受け止め、関わり合う人がリスペクトし合って創作をできるよう、様々な取り組みを行っています。
彼女の演劇作品は、骨太な戯曲とスピーディかつパワフルな演出で知られ、様々な賞を受賞しています:
- 2007年:『紅の舞う丘』で第1回CoRich春の舞台芸術祭り2007グランプリ
- 2013年:『国語の時間』により、読売演劇大賞優秀作品賞
- 2016年:『残花』『insider』により紀伊國屋演劇賞個人賞受賞
- 2017年:『アンネの日』『海の凹凸』の成果により芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞
- 2018年:『アトムが来た日』で岸田國士戯曲賞最終候補
- 2020年:映画『新聞記者』により日本アカデミー賞優秀脚本賞
- 2021年:読売演劇大賞優秀演出家賞
また、2025年1月にはザ・スズナリで『Yes Means Yes』を上演するなど、精力的に活動を続けています。
映像作品への進出
詩森ろばは演劇界での活躍に留まらず、映像作品の脚本家としても高く評価されています。
映画『新聞記者』
2019年に公開された映画『新聞記者』では、高石明彦、藤井道人と共に脚本を担当。政権がひた隠そうとする権力中枢の闇に迫ろうとする女性記者と、理想に燃え公務員の道を選んだ若手エリート官僚との対峙・葛藤を描いた社会派サスペンスフィクションとして話題となり、日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞しました。
テレビドラマ
テレビドラマでは、NHKの『群青領域』(2021年、長田育恵と共作)や『この花咲くや』(2022年)の脚本を手がけました。
そして2025年、民放連続ドラマの脚本に初挑戦したTBSの日曜劇場『御上先生』(みかみせんせい)では、松坂桃李主演による”官僚教師”の物語で話題を呼びました。この作品では”The Personal is political(個人的なことは政治的なこと)”という言葉を大きな柱として、教育のあるべき真の姿を描く教育再生ストーリーを展開。詩森は30年近く前に出会った言葉が2025年の今もなお有効であることを実感したと語っています。

創作の根底にある信念
詩森ろばの創作活動の根底には「個人的なことは政治的なこと(The Personal is political)」という信念があります。学生運動やフェミニズム運動で掲げられたこのスローガンに触れ、生きづらさを解決するには、社会のシステムや構造を変えていかなくてはならないという考えに至りました。この思想が「個を描くことはシステムにたどり着くこと」という彼女の創作姿勢につながっています。
また、詩森は基本的に「職業は尊敬されるべき」だと考え、作品を作る際には職業に対するリスペクトを大切にしています。特に教師という職業は、人間の成長過程に関わるという意味で特別な存在として描いています。
執筆・制作スタイル
詩森ろばの作品制作において最も重視されているのが「取材」です。脚本を執筆する前に綿密な取材を行い、テーマに関する深い理解と洞察を得ることで、リアリティのある人物像や状況を描き出します。また、役者一人ひとりの可能性を知るために、出演者の過去の作品を可能な限り視聴するなど、キャラクター作りにも妥協しません。
ドラマ『御上先生』の制作過程では、役者の顔写真と役名をデスクに貼って作業するという新しい試みも行い、立体感のあるキャラクター創造に努めました。
今後の活動と影響力
詩森ろばは今後も演劇ユニットserial numberでの活動を中心に、映画やテレビドラマの脚本も手がけていくと見られます。彼女の作品に一貫して流れる「それでも人は生きていかなくてはならない」というメッセージと、社会問題に鋭く切り込みながらも説教臭くならない表現力は、多くの人々の共感を呼び、日本の文化芸術シーンに大きな影響を与え続けるでしょう。
彼女の言葉「文化芸術は、命を守るためのものだ」という信念は、芸術の本質的な価値を改めて問いかけ、私たちに深い示唆を与えてくれます。
おわりに
演劇から映像へとその活躍の場を広げ、様々なテーマを通して人間の営みを描き続ける詩森ろば。彼女の創作活動からは、現代社会を生きる私たちへの問いかけと、より良い未来への希望が感じられます。今後も彼女の作品を通して、日本の文化芸術がさらに豊かになっていくことを期待したいと思います。