どんなに良いことがあっても、時間が経つと幸福感が元のレベルに戻ってしまう不思議な心の仕組みがあります。
この心理現象が「ヘドニックトレッドミル」であり、一時的な感情の変化に左右されず、長期的な幸福を築く上でこの概念の理解は欠かせません。
この記事では、ヘドニックトレッドミルの意味や原因を心理学の観点から解説します。
さらに、日常で実践できる4つの対策を通じて、快楽の踏み車から抜け出し、持続的な幸福度を高める方法を具体的に紹介します。

目標を達成しても満たされないのは、なぜなんだろう…

その原因は、誰もが持つ心の仕組みにあります。仕組みを理解すれば、対策を立てられますよ
- ヘドニックトレッドミルの意味と幸福度が元に戻る原因
- 仕事や恋愛で起こる身近な具体例
- 快楽の踏み車から抜け出し、幸福度を高める4つの対策
- 持続的な幸福につながる「非地位財」の考え方
ヘドニックトレッドミルとは幸福度が基準に戻る心理現象
私たちの心には、どんなに良いことがあっても、時間が経つと幸福感が元のレベルに戻ってしまう不思議な仕組みがあります。
この心理現象が「ヘドニックトレッドミル」であり、一時的な感情の変化に左右されず、長期的な幸福を築く上でこの概念の理解は欠かせません。
この現象は「快楽の踏み車」とも呼ばれ、目標を達成してもすぐに次の目標を追い求め、心が満たされない状態に陥る原因となります。
この心の働きを理解することで、日々の幸福度を高めるための具体的な一歩を踏み出せます。
快楽の踏み車と呼ばれる現象の意味
ヘドニックトレッドミルは、別名「快楽の踏み車」とも呼ばれます。
これは、フィットネスジムにあるルームランナー(トレッドミル)の上を走り続けても、実際には同じ場所から動いていない状態に例えられた言葉です。
例えば、年収が600万円から800万円に上がったとします。
最初は生活が豊かになったことを実感し、大きな満足感を得るでしょう。
しかし、数ヶ月も経てばその生活が当たり前になり、以前と変わらない幸福度のレベルに戻ってしまいます。
これが、まるで踏み車の上で走り続けているかのような状態です。

いくら頑張っても満たされないのは、この現象のせいだったんですね。

はい、この心の仕組みは多くの人が経験する普遍的なものです。
努力して前に進んでいるつもりでも、いつの間にか元の場所に戻ってしまうこの心理メカニズムを理解することが、本当の意味で心を満たすための第一歩となります。
幸福感の基準値となるセットポイント理論
ヘドニックトレッドミルを説明する上で重要なのが「セットポイント理論」です。
これは、人の幸福度には、遺伝などによってあらかじめ決められた基準値(セットポイント)があるという考え方です。
人生で嬉しい出来事や悲しい出来事があったとしても、感情の起伏は一時的なものです。
感情は時間の経過とともに落ち着き、長期的にはその人固有の幸福度の基準値へと収束していきます。
有名な研究では、宝くじの高額当選者と事故で体に障がいを負った人の幸福度を追跡調査したところ、一定期間後には両者の幸福度が事故前の自身の基準値近くまで戻っていたという結果が報告されています。

遺伝で決まっているなら、努力しても無駄なのでしょうか?

いいえ、セットポイントはあくまで基準です。意識的な行動によって、日々の幸福感を高めることは十分にできますよ。
この理論は、私たちの幸福感が外部の出来事だけで決まるわけではないことを示唆しており、内面的な心のあり方がいかに重要かを教えてくれます。
提唱された心理学の背景と関連論文
このヘドニックトレッドミルの概念は、1971年に心理学者のフィリップ・ブリッケルとドナルド・キャンベルによって提唱されました。
彼らは、多くの人がより良い生活を求めて努力するにもかかわらず、幸福度が大きく向上しない現象に着目しました。
彼らが発表した論文「Hedonic Relativism and Planning the Good Society」の中で、この概念が初めて示されました。
この論文では、経済成長のような社会全体の進歩が、必ずしも個人の幸福に直結するわけではないと指摘されており、後のポジティブ心理学の研究に大きな影響を与えています。
| 論文/研究名 | 提唱者/研究者 | 発表年 | 概要 |
|---|---|---|---|
| “Hedonic Relativism and Planning the Good Society” | P. Brickman, D. T. Campbell | 1971 | ヘドニックトレッドミルの概念を初めて提唱 |
| “Lottery winners and accident victims: is happiness relative?” | P. Brickman, D. Coates, R. Janoff-Bulman | 1978 | 宝くじ当選者と事故被害者の幸福度を調査しセットポイント理論を裏付け |
| “Beyond the Hedonic Treadmill: Revising the Adaptation Theory of Well-Being” | E. Diener, R. E. Lucas, C. L. Scollon | 2006 | セットポイントは複数あり、個人や状況によって変化する可能性を示唆 |
これらの研究の積み重ねにより、私たちの幸福に関する理解は深まり続けています。
ヘドニックトレッドミルは、幸福を科学的に探求する上での基礎的な概念となっているのです。
ヘドニックトレッドミルが起こる3つの原因

私たちの幸福感がなぜ長続きしないのか、その根本的な原因は一つではありません。
人間の心に深く根ざした、「快楽順応」「社会的比較」そして「セットポイント理論」という3つの心理的な仕組みが複雑に絡み合い、私たちの感情を元の状態に戻そうと働きます。
これから、幸福感がリセットされてしまうメカニズムを、3つの原因に分けて一つずつ見ていきましょう。
原因1-ポジティブな感情が薄れる快楽順応
ヘドニックトレッドミルが起こる最も基本的な原因は「快楽順応」です。
これは、ポジティブな出来事から得られる喜びや幸福感に、時間とともに「慣れ」てしまい、感情的な影響が薄れていく心理現象を指します。
私たちの脳は、変化に対応してエネルギー消費を最適化するようにできており、新しい刺激もやがては日常の一部として処理するようになります。
この現象を裏付ける有名な研究として、1978年に心理学者のフィリップ・ブリックマンらが行った調査があります。
この調査では、宝くじの高額当選者の幸福度は、事故によって体に障がいを負った人々の幸福度と、長期的には大きな差が見られなかったと報告されました。
これは、どんなに大きな幸運も、いずれは「当たり前」になってしまう人間の心の働きを示しています。

手に入れた瞬間の喜びが、どうして当たり前になってしまうんだろう?

それは、私たちの脳が新しい刺激に適応し、安定した状態を保とうとする生存本能の一種だからです
快楽順応は、環境の変化に適応して生き抜くために必要な能力ですが、一方で、手に入れた幸福感を維持することを難しくさせる要因にもなっています。
原因2-無意識に行われる他者との社会的比較
二つ目の原因は、無意識のうちに行われる「社会的比較」です。
社会的比較とは、自分自身の能力や意見、置かれている状況などを、他者と比較することで自己評価を行う心の働きを意味します。
自分の立ち位置を確認し、成長の糧にする側面もありますが、幸福感を損なう原因になることも少なくありません。
特にInstagramやX(旧Twitter)などのSNSが普及した現代では、他人の成功や充実した生活(上方比較)ばかりが目に入りやすく、自分の現状に対する不満や劣等感を抱きやすくなります。
たとえ自分自身が目標を達成したとしても、SNS上でさらに大きな成功を収めている人を見ると、達成感が薄れてしまう経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。

同期が先に昇進すると、自分の成果が色褪せて見えてしまう…

比べるべき相手は他人ではなく、昨日よりも成長した自分自身です
私たちは常に他者との関係性の中で生きていますが、過度な社会的比較は、終わりのない競争へと自分を駆り立て、ヘドニックトレッドミルのループを強化してしまうのです。
原因3-仕事や恋愛で感じる身近な例
これまでに説明した「快楽順応」や「社会的比較」は、決して特別なものではなく、私たちの日常のあらゆる場面に潜んでいます。
仕事での成功や恋愛における喜びなど、身近な出来事にこそ、ヘドニックトレッドミルの働きを見つけることができます。
例えば、仕事で目標としていた年収650万円を達成した瞬間は大きな満足感を得られますが、数ヶ月もすればその収入が基準となり、今度は年収800万円の同僚と比較して物足りなさを感じ始めます。
このように、私たちの欲求や期待値は、現状に慣れるにつれて上がっていく傾向があるのです。
| 場面 | 状況の例 | 心理的な変化 |
|---|---|---|
| 仕事 | 念願だったプロジェクトの成功や昇進 | 当初の達成感はすぐに薄れ、次の目標へのプレッシャーや日常業務への慣れを感じる |
| 恋愛 | 理想のパートナーとの交際や結婚 | 最初は大きな幸福感に満たされるが、時間と共にその存在が当たり前になり、ささいな不満を感じやすくなる |
| 買い物 | 欲しかった高級腕時計やブランドバッグの購入 | 所有した直後の喜びは短く、すぐに別の新しいモノや、さらに高価なモノが欲しくなる |
これらの例が示すように、私たちは常にルームランナーの上を走っているような状態で、一つの目標を達成しても、すぐにまた次の目標を追いかけてしまいます。
この心の仕組みを理解することが、ループから抜け出すための第一歩となるのです。
幸福度を高めヘドニックトレッドミルから抜け出す4つの対策

ヘドニックトレッドミルは強力な心理現象ですが、その仕組みを理解し、意識的に行動することで影響を和らげられます。
大切なのは、幸せを外に求めるのではなく、日々の生活の中で幸福を味わう能力を高めていくことです。
ここでは、明日から実践できる4つの具体的な対策を紹介します。
| 対策 | 目的 | 実践のポイント |
|---|---|---|
| 感謝の習慣 | 当たり前への意識を高め、満足度の基準値を引き上げる | 1日3つの良かったことを書き出す「感謝日記」の実践 |
| マインドフルネス | 「今」に集中し、感情の波に飲み込まれない心を育てる | 1日5分から始められる瞑想アプリの活用 |
| 新しい経験への投資 | 記憶に残り、満足感が長続きする「非地位財」を優先する | 旅行や自己投資、新しい趣味への挑戦 |
| 良好な人間関係 | 持続的な幸福感の土台となる他者とのつながりを深める | 家族や友人との質の高い時間を意識的に確保 |
これらの対策を生活に取り入れることで、私たちは快楽の踏み車から降り、自分自身の足で着実に幸福への道を歩んでいけるようになります。
対策1-感謝の習慣で日々の満足度を向上
ヘドニックトレッドミルから抜け出す第一歩は、当たり前になっているポジティブな側面に意識的に目を向けることです。
感謝の習慣は、私たちの脳がネガティブな情報に注目しやすい「ネガティビティ・バイアス」を修正し、日々の満足度を高める効果があります。
カリフォルニア大学の心理学者ロバート・エモンズらの研究では、感謝日記をつけたグループは、そうでないグループに比べて幸福度が高まることが示されています。
特別な出来事がなくても、感謝できることは日常の中に隠れているのです。
| 感謝日記の書き方例 | |
|---|---|
| 項目 | 内容 |
| 時間帯 | 寝る前の10分間 |
| 方法 | ノートやアプリに、その日感謝したことを3つ書き出す |
| ポイント | 「なぜ」感謝したのか、その時の感情も一緒に記録 |
| 具体例 | 「天気が良くて気持ちよかった。おかげで朝の散歩が楽しめた」 |

感謝と言われても、具体的に何をすればいいんだろう?

まずは1日3つの良かったことを書き出す「感謝日記」から始めるのが簡単でおすすめです。
この小さな習慣を続けることで、私たちは自分の周りにある幸せに気づきやすくなり、幸福度のベースラインそのものを着実に引き上げていけます。
対策2-マインドフルネスで現在の感情に集中
マインドフルネスとは、評価や判断を挟まず、「今、この瞬間」の経験に意識を向ける心の状態を指します。
私たちは常に過去の後悔や未来への不安に思考を奪われがちですが、マインドフルネスの実践は、その自動操縦状態から抜け出す手助けとなります。
Google社でも研修プログラムとして導入されている「サーチ・インサイド・ユアセルフ」では、1日わずか5分の瞑想でも、集中力の向上やストレス軽減に効果があるとされています。
呼吸に意識を向けることで、感情の波に飲み込まれず、客観的に自分を見つめる力が養われます。
| 簡単なマインドフルネス瞑想の手順 |
|---|
| ステップ1:静かな場所で椅子に座り、背筋を軽く伸ばす |
| ステップ2:目を閉じ、鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐き出す |
| ステップ3:呼吸に伴うお腹や胸のふくらみ・縮みに意識を集中させる |
| ステップ4:雑念が浮かんできたら、それに気づき、再び意識を呼吸に戻す |

瞑想って、なんだか難しそう…

「Calm」や「Headspace」といったアプリを使えば、初心者でもガイド付きで簡単に始められますよ。
マインドフルネスを通じて現在の経験を深く味わうことで、快楽順応のスピードを緩め、日々の出来事からより多くの喜びを感じ取れるようになります。
対策3-記憶に残る新しい経験への投資
幸福感の持続性という観点では、モノ(地位財)への支出よりも、経験(非地位財)への支出が有効です。
新しいスマートフォンや高級時計を手に入れた喜びは、他人との比較や「慣れ」によってすぐに薄れてしまいます。
一方、旅行やコンサート、学びといった経験は、記憶として残り続け、何度も追体験できるのです。
コーネル大学のトーマス・ギロヴィッチ教授の研究によると、人々は物質的な購入よりも経験的な購入の方が、長きにわたって高い満足感を得られることが分かっています。
経験は自分だけのものであり、他人と比較しにくいため、幸福感が色あせにくいのです。

ボーナスが出たら、新しいガジェットを買おうと思ってたけど…

その予算で、少し特別な旅行や新しいスキルの学習に挑戦してみませんか。
記憶に残り、自分を成長させてくれる経験への投資は、ヘドニックトレッドミルから抜け出し、人生全体の豊かさを高めるための確実な方法といえます。
対策4-良好な人間関係の構築
私たちの幸福感を最も左右するのは、他者との質の高い「つながり」です。
人間は社会的な生き物であり、孤立は幸福度を著しく低下させます。
どれだけ仕事で成功し、経済的に豊かになっても、心から信頼できる人間関係がなければ、持続的な幸福感を得ることは難しいのです。
ハーバード大学が80年以上にわたり追跡調査を行った「成人発達研究」では、幸福で健康な人生を送る上で最も重要な要因は「富や名声ではなく、良い人間関係である」と結論づけています。
困難な時に支え合い、喜びを分かち合える存在こそが、人生の満足度を決定づけるのです。
| 良好な人間関係を築くためのアクション |
|---|
| 家族や親しい友人と定期的に連絡を取る |
| 仕事仲間と業務以外の雑談をする時間を作る |
| 相手の話を評価せずに、最後まで聞くことを心がける |
| 小さなことでも感謝の気持ちを言葉で伝える |

仕事が忙しくて、つい人間関係を後回しにしがちだな…

週に一度、大切な人と食事をする時間を作るだけでも大きな効果がありますよ。
家族、友人、パートナーといった大切な人たちとの関係を育むことは、幸福度の土台を固める上で何よりも重要です。
信頼できる人とのつながりが、人生のあらゆる局面で私たちを支え、深い満足感をもたらしてくれます。
地位財と非地位財で考える幸福との向き合い方

ヘドニックトレッドミルを理解し、持続的な幸福を考える上で、私たちの資産を「地位財」と「非地位財」の2種類に分けて考えることが極めて重要です。
他者との比較によって価値が決まる地位財は幸福感が長続きせず、自分自身の内面から満足感を得られる非地位財こそが幸福を持続させる鍵となります。
| 項目 | 地位財 | 非地位財 |
|---|---|---|
| 定義 | 他人との比較で満足を得るもの | 他人との比較に関係なく満足を得るもの |
| 具体例 | 高級車、ブランド品、役職、年収 | 健康、愛情、自由、社会への貢献、経験 |
| 幸福の持続性 | 短期的 | 長期的 |
| ヘドニックトレッドミルの影響 | 受けやすい | 受けにくい |
これら2つの財産との向き合い方を変えるだけで、日々の満足度は大きく変わります。
仕事の成功や年収アップがもたらす一時的な喜び
仕事での成功や年収アップは、他人との比較によって価値を感じやすい「地位財」の典型例です。
これらは達成した瞬間に大きな喜びをもたらしますが、その効果は長続きしにくい特徴を持っています。
例えば、経済学者のダニエル・カーネマンの研究では、年収が一定額(約7万5,000ドル)を超えると、それ以上収入が増えても感情的幸福度は比例して上がらなくなることが示されています。
昇進して役職が上がったとしても、数ヶ月後にはそれが当たり前の日常となり、周囲のさらに高い地位の人と比較してしまいがちです。

どれだけ頑張って成果を出しても、喜びがすぐに消えてしまうのはなぜ?

それは、仕事の成功を他人との比較で測る「地位財」として捉えているからです。
目標達成の喜びそのものではなく、他者からの評価や優越感に幸福の基準を委ねてしまうと、ヘドニックトレッドミルの罠に深くはまりやすくなるのです。
恋愛や人間関係における感情の変化
恋愛や人間関係も、その捉え方次第で「地位財」にも「非地位財」にもなり得ます。
「恋人がいる」というステータスや、SNSでの充実ぶりをアピールするための関係性は「地位財」といえるでしょう。
パートナーがいることを友人と比較して安心したり、結婚を周囲への体裁のために考えたりすると、最初の興奮が冷めた後に不満を感じやすくなります。
ハーバード大学の成人発達研究では、良好な人間関係を築いている人は、そうでない人に比べて幸福度が高く、長寿であるというデータもあるほど、関係性の「質」が大切です。

パートナーとの関係がマンネリ化してきた気がする…

関係性をステータスとしてではなく、共に過ごす時間や経験といった「非地位財」として捉え直してみましょう。
他人に見せるための関係ではなく、お互いを尊重し、共に経験を分かち合うことに焦点を当てることで、関係は持続的な幸福をもたらす「非地位財」へと変化していきます。
物質的な豊かさ「地位財」との付き合い方
高級車やブランド品、広い家といった物質的な豊かさは、他者との比較で価値が決まる「地位財」の代表格です。
手に入れた瞬間の満足度は高いものの、幸福感はすぐに薄れてしまいます。
新しいスマートフォンを手に入れても、1年も経てば次世代モデルが発表され、自分のものが古く感じてしまう経験は誰にでもあるはずです。
これは、常に他者や新しい基準と比較される地位財の宿命といえます。

欲しいものを手に入れても、すぐに別のものが欲しくなるのはなぜ?

地位財がもたらす満足感が、他人との比較の上に成り立つ一時的なものだからです。
地位財を完全に否定する必要はありませんが、それに依存しすぎないことが重要です。
地位財の追求を目的とするのではなく、自分の価値観を満たすための手段として賢く付き合っていく視点が求められます。
心を満たす経験「非地位財」の価値
旅行や学び、友人との時間、健康といった経験や状態は、他人との比較とは無関係に満足感を得られる「非地位財」です。
これらはヘドニックトレッドミルの影響を受けにくく、持続的な幸福につながります。
コーネル大学の心理学者トーマス・ギロビッチの研究によると、モノへの支出よりも経験への支出の方が、長期間にわたって高い満足度をもたらすことが分かっています。
経験は記憶として残り、語るたびに喜びを再体験できるからです。

どうすれば、もっと持続的な幸福感を得られる?

物質的な豊かさ(地位財)よりも、心を満たす経験(非地位財)に時間とお金を使うことを意識しましょう。
趣味に没頭する時間を作ったり、新しいスキルを学んだり、大切な人と過ごす時間を増やしたりすること。
このような非地位財への投資こそが、快楽の踏み車から降りるための最も確実な一歩となります。
よくある質問(FAQ)
セットポイント理論で幸福の基準値が決まっているなら、対策をしても意味がないのでしょうか?
いいえ、決して意味がないわけではありません。
セットポイント理論が示す幸福度の基準値は、あくまで初期設定のようなものです。
例えば、体重にも人それぞれ基準がありますが、運動や食生活といった日々の行動で変えていけます。
それと同じように、感謝の習慣や新しい経験を意識的に取り入れることで、幸福と感じる心の基準値そのものを引き上げることは十分に可能です。
ヘドニックトレッドミルは、悪いことばかりなのでしょうか?何か良い側面はありますか?
この現象には、私たちを大きな悲しみや苦しみから守ってくれる重要な役割があります。
つらい出来事があっても、時間が経つにつれて感情が元の状態に戻っていくのは、この心の働きのおかげです。
この回復力があるからこそ、私たちは失敗を乗り越え、再び新しい目標に向かって挑戦できます。
現状に満足せず、常により良い状態を目指す原動力にもなるのです。
地位財を完全に避けるべきですか?仕事での昇進や年収アップを目指すのは間違いなのでしょうか?
地位財である仕事の成功や年収アップを目指すこと自体は、決して間違いではありません。
それらは努力するための大切な動機になります。
問題なのは、それ「だけ」を幸福の目的とすることです。
昇進や目標達成という結果(地位財)に至るまでのプロセスで得られる自己成長や経験、仲間との絆といった非地位財にも価値を見出すことで、満足度はより持続します。
紹介されている対策を実践しても、なかなか幸福を実感できません。どうすれば克服できますか?
効果がすぐに出ないと感じても、焦る必要はありません。
大切なのは、これらの対策を歯磨きのように毎日の習慣にすることです。
最初は「マインドフルネスを1日3分だけ行う」「寝る前に感謝できることを1つだけ思い出す」など、ごく小さなことから始めてみましょう。
一度に全てを完璧に行うのではなく、自分に合った方法を少しずつ続けることで、感情はゆっくりと、しかし確実に変化していきます。
この心理学の知識を、チームのマネジメントや部下のモチベーション維持に活かす方法はありますか?
はい、活かすことができます。
給与や役職といった地位財だけでなく、仕事を通じた成長実感や貢献している感覚といった非地位財に焦点を当てることが重要です。
例えば、結果だけでなくプロセスを褒めたり、仕事の意義を伝えたり、メンバー同士が感謝を伝え合う機会を作ったりします。
これにより、メンバーは他者との社会的比較に陥りにくくなり、仕事そのものから満足度を得られるようになります。
ヘドニックトレッドミルから抜け出すために、恋愛や人間関係で特に意識すべきことは何ですか?
恋愛や人間関係における「慣れ」を乗り越えるために、意識的に「新しい経験」を二人で共有することが有効です。
いつもと違う場所へ出かけたり、一緒に新しい趣味を始めたりすることで、関係性に新鮮な刺激が生まれます。
また、SNSで他のカップルと比較するのをやめ、二人の間にある当たり前の日常に感謝すること。
これが、一時の感情に左右されない、安定した幸福の土台を築きます。
まとめ
この記事では、目標を達成しても幸福感が長続きしない心理現象「ヘドニックトレッドミル」について解説しました。
この心の仕組みを理解し、他人との比較で価値が決まる「地位財」よりも、自分自身の経験や人間関係といった「非地位財」を大切にすることが、持続的な満足感を得るための鍵です。
- 幸福度が基準値に戻ってしまう心の仕組み「ヘドニックトレッドミル」
- 主な原因はポジティブな出来事への「慣れ」と「他人との比較」
- 持続する幸福の鍵は経験や人間関係といった「非地位財」
まずは、今日あった良かったことを3つ書き出す「感謝日記」から始めてみませんか。
この小さな習慣が、当たり前の中にある幸せに気づくための第一歩となります。


